経営における「戦略」という言葉は、ビジネスの成功において非常に重要な概念です。しかし、戦略にはさまざまな種類が存在し、それぞれの目的や役割が異なります。本記事では、「経営戦略」「事業戦略」「Go-To-Market戦略(GTM戦略)」「マーケティング戦略」など、経営に関連する主要な戦略の違いについて詳しく解説します。さらに、それら戦略がどのように関連し、営業活動や実務にどのように活用されるかについても触れていきます。
経営戦略とは?
定義
経営戦略(Corporate Strategy)は、企業全体の長期的な方向性を示す最上位の戦略です。この戦略は、企業の作命(ミッション)やビジョン(将来のありたい姿)を達成するために、資源の配分、事業ポートフォリオの選択、競争優位性の確立などを決定します。
主な特徴
- 長期的視点: 5年以上の期間を見据えた戦略。
- 全社的範囲: 企業全体の方向性を設定し、各事業部の活動を調整。
- 資源配分: どの事業に資金やリソースを投入するかを決定。
- この活動では、「事業ポートフォリオ」を用いて選択を行うことが多いです。たとえば、BCGマトリクスを用いて、事業を「撤退」「成長」「維持」などに分類し、リソース配分の優先順位を決める手段が例示として挙げられます。
事業ポートフォリオ以外の資源配分の具体例
- 新規事業への参入決定。
- グローバル市場への展開。
- M&A(合併・買収)や事業の売却。
経営戦略は企業の最上位に位置し、その下にある各種戦略の枠組みを決定する重要な役割を持っています。
事業戦略とは?
事業戦略(Business Strategy)は、経営戦略の下位に位置し、特定の事業領域や製品カテゴリにおける競争優位を築くための戦略です。各事業単位が持つリソースを最大限に活用し、マーケットでのポジションを強化することを目指します。
主な特徴:
- 競争優位性の確立
- 競合他社と差別化された製品やサービスを提供し、選ばれる理由を明確化します。
- 差別化戦略(品質や付加価値の向上)やコストリーダーシップ戦略(低コストによる市場支配)が中心的なアプローチです。
- 事業ユニットごとの視点
- 事業戦略は、企業内の各事業単位や製品ラインに焦点を当てます。
- 例: ソフトウェア事業部の戦略、ハードウェア事業部の戦略など。
- 顧客セグメントの特定
- ターゲットとする顧客層を定義し、そのニーズや課題に応えるアプローチを策定します。
- 具体的な目標設定
- 事業戦略は収益目標、市場シェア、ブランド価値向上など、定量的で明確な目標に基づいて構築されます。
具体例
- SaaS企業が中小企業向けに月額料金の安いプランを提供し、顧客基盤を拡大する。
- 消費財メーカーがプレミアム路線の商品を展開し、ブランドイメージを向上させる。
経営戦略との違い
項目 | 経営戦略 | 事業戦略 |
---|---|---|
スコープ | 企業全体 | 個別の事業やプロダクト単位 |
目的 | 長期的な方向性の設定 | 市場における競争優位性を確立する |
時間軸 | 長期(5年以上) | 中期~短期(1~5年) |
具体性 | 抽象的で包括的な内容 | より具体的で実行可能な内容 |
関連する戦略 | リソース配分、事業ポートフォリオの最適化 | マーケティング戦略、営業戦略、GTM戦略との連動 |
事業戦略は、経営戦略の下に位置する実行計画として、企業全体の方向性を踏まえたうえで事業ごとの具体的な目標達成に向けた方針を示します。この役割を正しく理解することで、企業全体の成長に貢献することが可能になります。
Go-To-Market戦略とは?
定義
Go-To-Market戦略(GTM戦略)は、プロダクトやサービスを市場にどのように展開し、ターゲットとするかを設計するための戦略です。これは、マーケティングのみならず、販売チャネルやパートナーネットワークなども含まれます。
主な特徴
- ターゲットの特徴の分析:情報を基に、ターゲット層の定義を行います。
- チャネルの選定:販売チャネルの利用方法を決定する。
- プロモーションとセールスストーリー:市場に実装されるメッセージを設計。
具体例
- 新製品のローンチプラン。
- パートナーチャンネルを利用した配布戦略。
- 顧客を引き付けるためのデモンストレーション。
マーケティング戦略とGo-To-Market戦略の違い
マーケティング戦略とGo-To-Market戦略は似ているようで異なる概念です。両者は目的やアプローチにおいて重なる部分があるものの、それぞれ異なる役割を持っています。
マーケティング戦略
マーケティング戦略は、製品やサービスを市場に適切にポジショニングし、長期的に競争優位を確立するための枠組みです。これには以下の要素が含まれます。
- 市場調査:顧客ニーズや市場動向の把握。
- 製品ポジショニング:他社との差別化ポイントを明確化。
- 価格戦略:ターゲット層に最適な価格設定。
- プロモーション:ブランド認知を高めるための広告やキャンペーン。
Go-To-Market戦略
一方で、Go-To-Market戦略は、新製品や新サービスの「市場投入」に特化した短期的なアプローチです。この戦略は、次のような具体的な行動計画を含みます。
- ローンチ計画:製品をどのタイミングで、どのようにリリースするか。
- 販売チャネル:直販、代理店販売、オンライン販売などの選定。
- 営業戦術:営業チームのトレーニングやセールストークの策定。
違いをまとめると…
項目 | マーケティング戦略 | Go-To-Market戦略 |
---|---|---|
目的 | 長期的な市場競争力の確立 | 新製品・サービスの市場投入を成功させる |
適用範囲 | 広範な市場活動(製品開発から顧客維持まで) | 市場投入プロセスに特化 |
時間軸 | 中長期 | 短期 |
マーケティング戦略はGo-To-Market戦略の基盤として機能し、製品やサービスを適切に市場で位置付けるための方向性を提供します。一方で、Go-To-Market戦略は、具体的な販売や導入プロセスを詳細に計画し、実行に移す段階をカバーします。
営業戦略とGo-To-Market戦略の関係
Go-To-Market戦略は営業戦略とも密接に関連しています。営業戦略は、特定の市場や顧客セグメントに対する販売活動の効率を最大化するための戦略であり、Go-To-Market戦略の一部として機能します。
営業戦略の具体例
- ターゲットアカウントの選定:高い収益が見込める顧客のリストアップ。
- セールスプロセス:リード獲得から契約締結までの一連のプロセス設計。
- インセンティブプラン:営業チームのモチベーションを高めるための報酬制度。
Go-To-Market戦略は、営業活動における全体像(たとえばチャネルの選定やメッセージング)を定義しますが、営業戦略はその中で実際の「販売活動」を最適化する役割を果たします。
戦略と戦術の違い
多くの場合、「戦略」と「戦術」は混同されがちですが、これらは異なる概念です。
- 戦略:長期的な目標を達成するための全体的な計画。
- 戦術:戦略を実行するための具体的な行動や方法。
具体例
- 戦略:SaaS製品を中小企業向けに展開し、3年間で市場シェアを20%獲得する。
- 戦術:ウェビナーを月に2回開催し、リードを獲得する。
戦略は「なぜこれを行うのか」を説明し、戦術は「どのようにそれを行うのか」を明確にします。
まとめ
経営における各種戦略は、企業の成功を導くためにそれぞれ異なる役割を果たしています。
- 経営戦略:企業全体の方向性を示し、リソース配分や事業ポートフォリオの選択を行う。
- 事業戦略:各事業単位で競争優位性を確立し、具体的な成長戦略を策定する。
- Go-To-Market戦略:新製品やサービスを市場に投入し、ターゲットに届けるための短期的な計画を立案する。
- マーケティング戦略:長期的な視点で市場ニーズを分析し、競争優位を築くための包括的な計画を策定する。
- 営業戦略:販売活動の効率化やターゲット顧客へのアプローチを最適化する。
それぞれの戦略は独立しているように見えても、密接に関連し合っています。企業がこれらを適切に理解し、使い分けることで、長期的な成長と短期的な成果を両立することが可能になります。本記事を通じて、これらの戦略を整理し、自社の状況に応じた活用方法を検討する一助となれば幸いです。
これら戦略の立案において、伴走が必要な場合や何かご不安に感じる点がある場合はお気軽にお問い合わせください。