小規模企業共済は、個人事業主や小規模な法人経営者が、将来のリタイアや事業廃止時の資金準備を目的として加入できる制度です。中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営し、国の制度として手厚い支援が受けられます。
この共済制度は、いわば「個人事業主のための退職金制度」とも言えるもので、掛金は全額所得控除の対象となり、節税メリットも大きいのが特徴です。また、契約者貸付制度を利用すれば、一定範囲内で掛金を担保に資金を借りることも可能です。
しかし、短期間での解約では元本割れのリスクがあるなど、注意点もあります。本記事では、小規模企業共済の仕組みやメリット・デメリット、活用方法について詳しく解説します。個人事業主や経営者の資産形成に役立つ情報を提供しますので、ぜひ最後までお読みください。
小規模企業共済の概要
小規模企業共済は、中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する共済制度で、個人事業主や小規模企業の経営者が退職時や廃業時の資金準備を行うための仕組みです。一般的な会社員が退職金を受け取れるのに対し、個人事業主や小規模企業の経営者にはそのような制度がなく、老後資金や事業廃止時の資金確保が課題となります。小規模企業共済は、このような人々のために設計された「自分で積み立てる退職金制度」と言えます。
制度の目的と仕組み
小規模企業共済の目的は、事業のリタイアや廃業後の生活を支えるための資金を計画的に準備することです。掛金を毎月積み立て、将来的に共済金として受け取ることができます。積立方式のため、長期間加入することでより多くの資金を確保でき、受け取り時には税制優遇措置が適用される点が大きなメリットです。
共済金の受け取り方法には、一括受取、分割受取、またはその併用があり、受取時の税金についても有利な制度設計がされています。たとえば、一括受取の場合は「退職所得控除」、分割受取の場合は「公的年金等控除」が適用され、税負担を抑えることが可能です。
加入資格と対象者
小規模企業共済に加入できるのは、個人事業主や法人の経営者(役員)であり、従業員数が一定の基準を満たしている必要があります。具体的には以下のような条件があります。詳細はこちらをご確認ください。
- 個人事業主:従業員が常時20人以下(商業・サービス業は5人以下)
- 法人の役員:会社の経営に関わる役員で、一定の条件を満たす者
- 共同経営者:個人事業主と共同で事業を営んでいる人(最大2名まで)
なお、一般の会社員や大企業の役員は加入できません。また、事業を廃止・譲渡すると共済の契約が終了するため、法人化を検討している個人事業主はタイミングを考慮する必要があります。
小規模企業共済は、節税しながら将来の資金を準備できる有効な制度ですが、加入対象者には一定の制限があるため、適用条件をよく確認したうえで活用することが重要です。
掛金の設定と支払い方法
小規模企業共済では、加入者が毎月一定額の掛金を支払い、将来の退職や廃業時に共済金として受け取る仕組みになっています。掛金の設定には柔軟性があり、加入者の事業の状況に応じて無理なく積み立てられるよう工夫されています。また、支払い方法も選択肢があり、計画的に積み立てやすい制度設計となっています。
掛金の設定範囲
小規模企業共済の掛金は、月額1,000円から7万円の範囲で500円単位で自由に設定できます。この幅広い選択肢により、加入者は事業の状況に応じて無理のない金額を選ぶことができます。
さらに、掛金は途中で増額・減額が可能です。たとえば、事業が好調なときは掛金を増額し、資金繰りが厳しいときは減額することもできます。ただし、一度増額した掛金を減額する際は一定の制約があるため、変更時には慎重に判断する必要があります。
また、掛金は全額所得控除の対象となり、節税効果が大きいのも特徴です。たとえば、年間84万円(最大掛金7万円×12ヶ月)を支払った場合、その全額が課税所得から控除されるため、所得税・住民税の軽減につながります。この税制優遇は、小規模企業共済の大きなメリットの一つです。
掛金の支払い方法
小規模企業共済の掛金は、基本的に**口座振替(自動引き落とし)**によって支払います。毎月決まった日に指定の口座から引き落とされるため、払い忘れの心配がなく、手間をかけずに積み立てを継続できます。
また、前納制度も用意されており、1年分や数年分の掛金をまとめて支払うことも可能です。前納することで一定の割引が適用されることはありませんが、手続きの簡素化や、資金があるときに先に支払っておくことで事業資金の管理をしやすくなる利点があります。
掛金の変更や休止について
事業の状況に応じて掛金の変更や休止をすることもできます。
- 増額・減額:事業の状況に応じて掛金の変更が可能。ただし、減額には制約があるため、計画的に行う必要がある。
- 一時休止:資金繰りが厳しい場合、一時的に掛金の支払いを休止することも可能。ただし、共済契約自体は継続され、後に支払いを再開する必要がある。
掛金の設定や変更には一定のルールがありますが、事業環境に合わせて柔軟に対応できるため、長期的な視点で計画的に利用することが重要です。
小規模企業共済のメリット
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者が退職や廃業時に備えるための制度ですが、それだけでなく大きな節税効果や資金繰りの支援など、さまざまなメリットがあります。ここでは、主なメリットについて詳しく解説します。
税制優遇のメリット(掛金の全額所得控除)
小規模企業共済の最大のメリットは、掛金の全額が所得控除の対象になる点です。これは、毎月支払う掛金の全額を所得から差し引くことができるため、所得税や住民税の節税につながります。
例えば、月額5万円の掛金を1年間支払うと、年間60万円が所得控除となります。課税所得が減少することで、納める税額が少なくなり、実質的な負担を軽減できます。特に、高所得の事業者ほど節税効果が大きくなります。
退職金としての利用(共済金の受け取り)
小規模企業共済に加入し、長期間掛金を支払うことで、将来的に退職金として共済金を受け取ることができます。会社員には企業からの退職金制度がありますが、個人事業主や経営者は自分で退職金を準備する必要があります。そのため、小規模企業共済は「自分で積み立てる退職金」として活用できます。
さらに、共済金の受け取り時には税制上の優遇措置があり、一括受取なら「退職所得控除」、分割受取なら「公的年金等控除」の適用を受けられます。これにより、受取時の税負担を大きく軽減できます。
資金繰り支援(契約者貸付制度)
小規模企業共済には、資金繰りを支援するための契約者貸付制度が用意されています。この制度を利用すると、支払った掛金の範囲内で資金を借りることが可能です。
通常の銀行融資と異なり、審査が不要で迅速に借りられるため、急な資金需要が発生した際に活用できます。例えば、事業資金が一時的に不足した場合や、設備投資が必要になった際に、すぐに資金を確保できるのが大きなメリットです。
また、貸付の金利も低く設定されているため、金融機関からの借り入れよりも有利な条件で資金調達ができる可能性があります。詳細はこちらをご確認ください。
任意解約でも一部の共済金を受け取れる
小規模企業共済は、基本的には長期間の積立を前提とした制度ですが、万が一、事業を継続できなくなった場合や他の理由で途中解約する場合でも、一部の共済金を受け取ることができます。ただし、短期間で解約すると元本割れする可能性があるため、慎重に判断することが大切です。
小規模企業共済のデメリットと注意点
小規模企業共済には多くのメリットがありますが、一方でデメリットや注意すべき点も存在します。制度を活用する際には、こうしたリスクを理解した上で計画的に利用することが重要です。ここでは、小規模企業共済の主なデメリットについて解説します。
元本割れのリスク(短期間で解約した場合)
小規模企業共済は長期的な積立を前提とした制度ですが、短期間で解約すると元本割れする可能性があります。掛金の支払い期間が20年以上であれば、支払った掛金以上の共済金を受け取ることができますが、加入後すぐに解約すると、受取額が支払った掛金総額を下回ることがあります。
特に、掛金の納付期間が240ヶ月(20年)未満の場合、解約手当金の受取額が掛金総額を下回るため、早期解約は避けるべきです。また、12ヶ月(1年)未満で解約すると、一切の共済金を受け取ることができません。このため、事業を長く続ける意思がある人に適した制度と言えます。
受け取り時の税金(退職所得 or 公的年金等控除)
小規模企業共済の共済金を受け取る際には、税金がかかります。受取方法によって適用される税制が異なるため、事前に理解しておくことが重要です。
- 一括受取の場合:「退職所得」として扱われ、退職所得控除が適用されるため、税負担が軽減される。ただし、掛金の納付期間が短いと控除額が少なくなるため、長期間加入する方が有利。
- 分割受取の場合:「公的年金等控除」が適用され、年金収入とみなされて課税される。公的年金と合算されるため、場合によっては所得税や住民税が増加することがある。
特に、年金受取を選択した場合は、他の年金収入と合算されるため、所得税や住民税の負担が増える可能性があります。受取時の税金を考慮しながら、適切な受取方法を選択することが大切です。
加入対象の制限(法人役員・個人事業主のみ)
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者向けの制度であり、一般の会社員は加入できません。また、法人の役員であっても、役員報酬を受け取っていない場合は加入資格がありません。
さらに、法人を設立すると個人事業主の資格を失うため、法人化した場合は共済契約を解約するか、役員として新たに契約し直す必要があります。このように、事業形態の変更によって契約の継続が難しくなるケースがあるため、加入時には将来的な事業計画を考慮する必要があります。
掛金の変更・減額に制約がある
小規模企業共済の掛金は、月額1,000円~7万円の範囲で設定できますが、一度増額すると減額には制限があります。事業が好調なときに掛金を増額したものの、後で資金繰りが厳しくなった場合に自由に減額できない可能性があるため、慎重に掛金額を設定することが重要です。
また、掛金の支払いを一時的に休止することも可能ですが、その間は共済金の積立が進まないため、将来受け取る金額に影響が出る点も留意すべきです。
元本割れの可能性と廃業時の対応
小規模企業共済は、個人事業主や法人の経営者が退職や廃業時の資金を準備するための制度ですが、解約のタイミングによっては元本割れする可能性があります。 特に、廃業や法人化の際には適切な対応をしないと、支払った掛金総額を下回る共済金しか受け取れない場合があります。ここでは、元本割れの可能性と回避方法、さらに個人事業主と法人のそれぞれの廃業時の適切な対応について解説します。
元本割れの可能性
小規模企業共済では、加入期間が短い場合や解約のタイミングによっては、元本割れが発生する可能性があります。
元本割れが発生するケース
① 加入後12ヶ月未満での解約(共済金なし)
- 掛金の納付期間が12ヶ月未満の場合、一切の共済金を受け取ることができません。
- そのため、1年以内に解約する可能性がある場合は、加入を慎重に検討する必要があります。
② 掛金納付期間が20年未満での解約(共済金Bで元本割れの可能性あり)
- 納付期間が20年未満で解約すると、受取額が掛金総額を下回ることがあります。
- 掛金の納付期間が長くなるほど受取額が増えますが、20年未満の解約では損をするリスクが高まります。
③ 共済金Aと共済金Bの違いによる影響
- 共済金A(元本割れなし) → 事業の完全廃業や法人の役員を完全退職した場合に受け取ることができる。掛金総額以上の金額を受け取れるため、元本割れしない。
- 共済金B(元本割れの可能性あり) → 任意解約や法人化による解約の場合に適用される。受取額が掛金総額を下回ることがあり、元本割れする可能性がある。
元本割れを回避する方法
元本割れを防ぐためには、以下の方法を実践することが重要です。
① 最低でも20年以上加入を継続する
- 掛金の納付期間が20年以上になると、共済金Bでも元本割れしにくくなる。
- 可能な限り長期間加入し、解約する場合でも損をしない状態にする。
② 契約者貸付制度を活用する
- 一時的に資金が必要になった場合、解約せずに契約者貸付制度を利用すれば、掛金の範囲内で低金利の借入が可能。
- 急な資金需要に対応しながら、共済契約を維持できる。
③ 法人化の際に注意する
- 個人事業主が法人化すると共済契約は解約扱いになり、共済金Bとしての受取となるため、法人化のタイミングを工夫する。
- 完全に廃業してから法人化することで、共済金Aを受け取ることが可能。
④ 掛金は無理のない範囲で設定する
- 掛金の減額には制約があるため、資金繰りが厳しくなっても継続できる金額を設定することが重要。
廃業時の対応(個人事業主・法人別)
廃業時には、適切な対応を行うことで、共済金を最大限に活用できます。
個人事業主が廃業する場合
✅ 完全に廃業すれば共済金Aを受け取れる
- 税務署に「廃業届」を提出し、事業を完全にやめたことを証明する必要があります。
- 廃業後に法人を設立すると「法人化による共済金Bの扱い」になるため、法人化のタイミングには注意が必要。
✅ 新たに個人事業を始める場合、契約を維持できる
- 廃業後に新たに個人事業を開業すれば、契約を解約せずに継続できる可能性があります。
法人を廃業(解散)する場合
✅ 法人を完全に解散すると、契約は解約となる
- 法人の解散(廃業)をすると、原則として小規模企業共済の契約を継続することはできず、共済金AまたはBを受け取る必要があります。
✅ 法人を休業扱いにすると契約を維持できる
- 法人を解散せずに休業扱いにすることで、小規模企業共済の契約を維持できる可能性があります。
- 休業状態のまま役員でいる限り、契約を解約せずに継続可能。
✅ 法人解散後に新しい法人を設立し、役員になると契約を再開できる
- 一旦契約を解約しても、新たな法人を設立し、役員として再加入することが可能。
- ただし、再開=新規契約となるため、掛け金が引き継げないことには注意する。
廃業しても元本割れしないためには?
廃業時に元本割れを回避するためには、以下の方法を実践することが有効です。
✅ 共済金Aを受け取る条件を満たす
- 廃業の際には、共済金Aの条件を満たすことで、元本割れを防げる。
- 「完全廃業」または「法人役員退職(再就職なし)」の形をとることがポイント。
✅ 20年以上の加入を目指す
- 掛金納付期間が20年以上なら、共済金Bでも掛金総額以上の金額を受け取れる可能性が高い。
✅ 廃業後にすぐに法人化しない
- 法人化する場合は、個人事業主の共済契約を解約せず一定期間をおくと、共済金Aを受け取れる可能性が高まる。
✅ 短期間で解約せず、貸付制度を活用する
- 資金が必要なら契約者貸付制度を利用することで、共済金Aの受取条件を満たすまで契約を維持できる。
まとめ
小規模企業共済は、個人事業主や法人の経営者が将来の退職や廃業に備えて積み立てることができる制度です。掛金の全額が所得控除の対象となるなど、節税メリットが大きい一方で、解約のタイミングによっては元本割れのリスクがあるため、適切な活用が求められます。
元本割れを防ぐためには、以下のポイントが重要です。
✅ 20年以上加入を継続する → 掛金の納付期間が20年以上あれば、共済金Bでも元本割れのリスクを抑えられる。
✅ 共済金Aの条件を満たす → 個人事業主なら「完全廃業」、法人の役員なら「完全退職」していれば、掛金総額以上の共済金Aを受け取れる。
✅ 法人の休業を活用する → 法人を解散せずに休業扱いにすれば、契約を維持できる。
✅ 契約者貸付制度を利用する → 一時的な資金不足の場合は解約せずに貸付制度を活用し、契約を継続する。
廃業や法人化のタイミングを誤ると、共済金B扱いとなり損をする可能性が高いため、計画的に活用することが重要です。 長期的な視点で加入し、制度を最大限に活用することで、将来の資金準備を有利に進めることができます。有用な制度は、上手に活用していきましょう!