企業の成長には優れた人材の確保と定着が不可欠ですが、そのためには適切な人事評価制度が求められます。厚生労働省が提供する「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」は、人事評価制度の整備を進める企業を支援する制度です。本助成金を活用すれば、制度の導入や運用を進めながら、助成金の支給を受けることが可能になります。
本記事では、この助成金の概要や支給要件、申請の流れについて詳しく解説します。特に、人事評価制度を導入したいがコストや手間を懸念している企業経営者や人事担当者にとって、本制度は有効な支援策となるでしょう。助成金を活用することで、従業員のモチベーション向上や生産性の向上につなげ、企業全体の成長を促進できます。ぜひ、本記事を参考に、助成金の活用を検討してみてください。
助成金の支給要件(制度整備・目標達成)
「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」を受給するためには、企業は以下の要件を満たす必要があります。
制度整備の要件
(1) 人事評価制度等整備計画の作成・提出
企業は、すべての対象労働者に適用される人事評価制度および賃金制度の整備計画を作成し、本社所在地を管轄する都道府県労働局へ提出し、認定を受ける必要があります。
(2) 人事評価制度等の整備
認定を受けた計画に基づき、以下の要件を満たす人事評価制度および賃金制度を整備します。
- 評価基準の明確化と開示:人事評価の対象、基準、方法が明確であり、労働者に開示されていること。
- 定期的な評価の実施:年1回以上の人事評価を行うこと。
- 評価と賃金の連動:人事評価結果と賃金の額や変動の幅・割合との関係が明確であること。
- 賃金表の作成と開示:賃金表を定め、労働者に開示していること。
- 賃金の増加見込み:新制度の適用により、対象労働者の「毎月決まって支払われる賃金」の額および総額が3%以上増加する見込みであること。
(3) 人事評価制度等の実施
整備した制度を、対象となるすべての労働者に適用し、実際に運用します。
目標達成の要件
制度整備後、以下の目標を達成することが求められます。
(1) 賃金の引き上げ
人事評価制度等の「実施日の属する月の前月」と「実施日の属する月」を比較し、対象労働者に支払われる「毎月決まって支払われる賃金」の総額が3%以上増加していること。
(2) 離職率の低下
人事評価制度等の適用開始日から1年間の離職率が、計画提出前の1年間と比較して目標値を達成していること。
- 離職率の上限:評価時離職率が30%以下であること。
これらの要件をすべて満たすことで、助成金の受給が可能となります。詳細や申請手続きについては、厚生労働省の公式ウェブサイトをご確認ください。
助成金の支給額と申請の流れ
「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」を活用することで、人事評価制度の整備にかかるコストを軽減しつつ、従業員のモチベーション向上と定着率改善を図ることができます。本章では、助成金の支給額と具体的な申請の流れについて解説します。
助成金の支給額
本助成金は、企業が人事評価制度を整備し、一定の基準を満たした場合に支給されるもので、大きく2つのステップに分かれています。
制度整備助成(50万円)
以下の要件を満たした場合、50万円の助成金が支給されます。
- 人事評価制度の整備計画を提出し、都道府県労働局から認定を受けること
- 認定を受けた計画に基づき、評価制度と賃金制度を整備・実施すること
- 労働協約または就業規則に人事評価制度と賃金表を明文化すること
- 年1回以上の人事評価を行い、労働者に結果を開示すること
目標達成助成(80万円)
さらに、以下の目標を達成した場合、追加で80万円が支給されます。
- 制度適用後、「毎月決まって支払われる賃金」の総額が3%以上増加していること
- 制度適用後1年間の離職率が、制度導入前と比較して一定の水準を満たしていること(30%以下)
最大支給額は130万円(50万円+80万円)となります。
助成金の申請の流れ
助成金の申請は、以下のステップで進めます。
計画の作成と提出
- まず、人事評価制度の整備計画を作成し、都道府県労働局に提出します。
- 労働者代表の合意を得たうえで、計画を正式に申請します。
制度の整備と運用
- 労働局から計画の認定を受けた後、人事評価制度を就業規則などに明記し、実際に運用を開始します。
- 評価を年1回以上実施し、労働者に結果を開示します。
助成金の申請
- 制度整備が完了したら、「制度整備助成」を申請できます。(50万円)
- その後、1年間の運用後に賃金引き上げや離職率の改善を確認し、「目標達成助成」を申請します。(80万円)
助成金を活用するメリットと注意点
「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」は、企業の人事評価制度を整備し、賃金の引き上げや従業員の定着を図るために有効な支援策です。しかし、申請には一定の要件を満たす必要があり、適切な計画と準備が求められます。本章では、助成金を活用するメリットと、申請時の注意点について解説します。
助成金を活用するメリット
人事評価制度の導入・見直しを進めやすい
本助成金を活用することで、人事評価制度の導入や見直しにかかる費用負担を軽減できます。特に中小企業では、適切な評価制度の整備が後回しになりがちですが、助成金を活用することで、計画的な導入が可能になります。
賃金引き上げの財源として活用できる
助成金の支給要件には「毎月決まって支払われる賃金の総額を3%以上増加させること」が含まれています。企業にとって、賃金引き上げは財政的な負担が大きいですが、本助成金を活用することで、負担を軽減しながら従業員の待遇改善を進めることができます。
従業員のモチベーション向上と離職率の低下
適正な人事評価制度が確立され、評価と賃金が連動することで、従業員の納得感が高まり、モチベーションの向上につながります。また、賃金の引き上げとともに職場環境の改善が進むため、離職率の低下にも寄与します。
生産性の向上と企業の成長
助成金の申請には、評価制度の適正な運用が求められます。これにより、企業は評価制度を形骸化させることなく、実効性のある運用を目指すことになります。結果として、従業員のスキル向上や業績向上が期待できます。
申請時の注意点
計画の作成と申請手続きが複雑
助成金の申請には、詳細な整備計画の作成や、都道府県労働局への申請・認定手続きが必要です。不備があると認定が受けられない可能性があるため、事前に要件をしっかり確認し、必要書類を整備することが重要です。
賃金引き上げの維持が求められる
助成金を受給するためには、賃金引き上げを行い、一定期間維持する必要があります。助成金を受給した後に、賃金を引き下げると要件を満たさなくなるため、財務計画と連動させた慎重な運用が求められます。
離職率の管理が必要
目標達成助成を受けるには、離職率を一定水準以下に抑える必要があります。離職率が高い企業では、助成金の受給要件を満たすために、職場環境の改善や従業員の定着施策を同時に進める必要があります。
就業規則や労働協約の整備が必要
助成金を申請する際には、新たに導入する人事評価制度を就業規則または労働協約に明記する必要があります。労働者代表との合意を得ることが求められるため、事前に社内調整を行うことが重要です。
成功する人事評価制度の設計ステップ
「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」を活用することで、人事評価制度の導入・改善を進めることができます。しかし、単に制度を整備するだけでなく、実際に機能する評価制度を設計することが重要です。本章では、助成金申請を成功させるために必要な人事評価制度の設計ステップを解説します。
目的を明確にする
まず、人事評価制度の導入目的を明確にします。一般的には、以下のような目的が挙げられます。
- 従業員の成長を促進し、組織の生産性を向上させる
- 評価の透明性を高め、従業員の納得感を向上させる
- 賃金制度と連動させ、優秀な人材の定着を図る 目的が明確でないと、評価制度が形骸化し、従業員にとって不満の原因となる可能性があります。
評価基準を明確にする
助成金の要件では「評価基準の明確化と開示」が求められます。そのため、以下のポイントを考慮しながら、客観的な評価基準を設定します。
- 職種ごとに評価項目を設定する
- 数値化できる指標(KPI)を活用する
- 定性的な評価も取り入れる 評価基準を明確にし、従業員が自らの成長目標を設定しやすいようにします。
評価プロセスを設計する
評価を適正に運用するため、以下のプロセスを設計します。
- 評価の頻度を決める(例:年1回または半期ごと)
- 評価者のトレーニングを実施する
- 評価結果をフィードバックする仕組みを作る 評価が一方的に行われるのではなく、従業員との対話を重視し、納得感を高めることが重要です。
賃金制度と連動させる
助成金の支給要件では、「人事評価結果と賃金制度が連動していること」が求められます。そのため、以下のような仕組みを設計します。
- 評価結果に応じた昇給・賞与の基準を明確にする
- 賃金テーブルを作成し、透明性を確保する
- 評価結果をもとに昇格・昇給の決定プロセスを整備する 従業員が自身の評価と報酬の関係を理解できるようにすることで、納得感が生まれ、モチベーション向上につながります。
助成金申請の準備を進める
制度を設計した後、助成金申請に向けて以下の準備を行います。
- 就業規則または労働協約に評価制度を明記する
- 従業員代表と合意を得る
- 都道府県労働局に整備計画を提出する 助成金申請には正確な書類作成が求められるため、計画的に準備を進めることが重要です。
まとめ
「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」は、企業が人事評価制度を整備し、賃金の引き上げや従業員の定着を図ることを目的とした制度です。本助成金を活用することで、最大130万円(制度整備助成50万円+目標達成助成80万円)の支援を受けながら、評価制度の導入・改善を進めることが可能になります。
助成金を受給するためには、評価基準の明確化、定期的な評価の実施、賃金制度との連動、離職率の低下といった要件を満たす必要があります。また、計画の作成から認定、実施、申請に至るまで、適切な手続きを踏むことが重要です。
本記事で紹介した「評価制度の設計ステップ」を参考にしながら、企業の成長につながる制度を構築しましょう。助成金を活用することで、従業員のモチベーション向上、定着率の改善、生産性向上が期待できます。適切な評価制度の導入を通じて、企業と従業員の双方にとってメリットのある環境を整備していきましょう。
人事評価制度の導入や見直しをご検討の方で、ご不安を抱えていたり、伴走が必要な方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にご相談ください。