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新しいAI「DeepSeek」とは何か?

近年、AI技術の発展は目覚ましく、特にファウンデーションモデルの登場により、さまざまな分野での活用が進んでいます。OpenAIのGPTシリーズをはじめとし、多くの企業が大規模AIモデルの開発に取り組んでいます。その中で注目されているのが、DeepSeekというオープンなファウンデーションモデルを提供するプロジェクトです。

DeepSeekは、推論コストの削減やMoE(Mixture of Experts)アーキテクチャの活用により、高性能ながらも効率的なAI運用を可能にしています。また、オープンモデルとして提供されるため、セルフホスティングによる自由な活用ができる点も大きな特徴です。

本記事では、DeepSeekの概要、AIにおける推論と学習の違い、DeepSeekが採用する技術、そしてオープンモデルの利点について詳しく解説します。

DeepSeekの概要

近年、大規模言語モデル(LLM)の発展により、AIの応用範囲は急速に広がっています。その中で注目を集めているのがDeepSeekです。DeepSeekは、高性能かつ低コストな推論を実現するオープンなファウンデーションモデルを提供するプロジェクトであり、特に企業や研究機関にとって柔軟なAI活用を可能にする点で優れています。

DeepSeekが従来のAIモデルと異なるのは、コストパフォーマンスに優れた推論の最適化と、オープンなAI開発環境の提供です。通常、大規模なAIモデルは計算資源を大量に消費し、特に推論(インフェレンス)フェーズにおいてコストが高くなりがちですが、DeepSeekは独自のアーキテクチャを採用することで、この課題を克服しています。

特徴

低コストで高性能な推論

AIを活用する際、学習(トレーニング)フェーズ以上に、推論フェーズのコストが重要になります。なぜなら、学習は一度行えば済むのに対し、推論はユーザーの入力に応じて常に実行されるからです。DeepSeekは、計算リソースの効率化によって推論コストを抑えつつ、高品質な応答を生成できる点が特徴です。

この推論最適化には、Mixture of Experts(MoE)アーキテクチャの採用が大きく関係しています。MoEでは、モデル全体を常に動作させるのではなく、必要な「専門家(Experts)」のみを選択して推論を行うため、計算資源の無駄を省くことができます。

MoEアーキテクチャの採用

DeepSeekのもう一つの重要な特徴が、MoEアーキテクチャを活用している点です。従来の大規模言語モデル(LLM)は、すべての層を一律に処理するため、計算コストが非常に高くなりがちでした。一方、MoEでは、複数の「専門家モデル」の中から最適なものだけを選択的に活用するため、リソースの効率化とモデルのスケーラビリティ向上が可能となります。

以下の表は、従来のLLMとMoEアーキテクチャの違いを簡単に示したものです。

項目従来のLLMDeepSeekのMoEモデル
計算コスト高い低い(必要な部分のみ稼働)
推論速度遅め高速化が可能
スケーラビリティ制約が多い専門家の増減が可能

このように、DeepSeekはMoEを活用することで、従来のモデルと同等以上の精度を維持しながら、推論の効率化を実現しています。

オープンなファウンデーションモデル

DeepSeekのもう一つの大きな特徴は、オープンなファウンデーションモデルを提供していることです。ファウンデーションモデルとは、膨大なデータを用いて事前学習され、多様なタスクに応用可能な汎用AIモデルのことを指します。DeepSeekのモデルはオープンに提供されており、企業や研究者が自由にカスタマイズ・活用できる点が強みです。

オープンモデルの利点として、以下のような点が挙げられます。

  • カスタマイズ性の向上:企業や研究者が特定用途に最適化したAIモデルを構築しやすい。
  • コスト削減:API利用に依存せず、自社インフラ上で運用できるため、長期的なコストを抑えられる。
  • 透明性の確保:モデルの学習データやアルゴリズムを把握できるため、信頼性が高まる。

このように、DeepSeekは、推論の効率化とオープンなAI開発環境を両立することで、企業や研究機関がAIをより柔軟に活用できる道を切り開いています。次章では、AIにおける「推論」の重要性について、詳しく解説していきます。

AIにおける推論

AIを理解する上で、「学習(トレーニング)」と「推論(インフェレンス)」の違いを正しく把握することは重要です。AIモデルは、学習フェーズで知識を獲得し、推論フェーズでその知識を活用して動作します。本章では、AIの学習と推論の違いを整理し、強化学習の異なるアプローチについて解説します。

学習(トレーニング)と推論(インフェレンス)の違い

AIの動作は、大きく「学習」と「推論」に分けられます。

  • 学習(トレーニング):大量のデータを使ってモデルを調整し、知識を獲得するプロセス
  • 推論(インフェレンス):学習した知識をもとに、新しいデータに対する出力を生成するプロセス

以下の表に、それぞれの特徴をまとめます。

項目学習(トレーニング)推論(インフェレンス)
目的モデルを構築し、知識を蓄積学習した知識を使って新しいデータを処理
データ大量の学習データが必要入力データ(ユーザーからの入力など)
計算コスト高い(膨大な計算が必要)低い(迅速な処理が求められる)
頻度事前に実施(数回)運用時に頻繁に実施

学習はモデルの基盤を作るために不可欠ですが、実際の利用時には推論の性能が重要になります。特に、大規模言語モデル(LLM)や画像認識AIなどでは、推論のスピードと効率がユーザー体験を大きく左右します。

学習方法の種類

AIモデルを学習させる方法にはいくつかの種類があります。主に以下の3つが一般的です。

学習方法特徴メリットデメリット
教師あり学習正解データ(ラベル付きデータ)を使って学習高精度な予測が可能ラベル付きデータの準備が必要
教師なし学習データのパターンを自動的に発見ラベル不要で柔軟な学習が可能結果の解釈が難しい場合がある
強化学習試行錯誤を通じて最適な行動を学習ルールに基づく最適化が可能学習に時間がかかる

強化学習は、ゲームAIやロボット制御などで活用されることが多く、試行錯誤を重ねながら報酬を最大化する方法を学ぶのが特徴です。

強化学習の種類と違い

強化学習には、大きく2つのアプローチがあります。

  1. 大量のデータを使う方法:実際のデータやシミュレーションを通じて学習する
  2. 推論を活用して低コストに学習する方法:すでにあるモデルの推論を活用し、試行回数を抑えて学習する

それぞれの特徴を以下の表にまとめます。

強化学習の種類方法メリットデメリット
大量データを使用する強化学習実際のデータやシミュレーションを大量に収集し、学習を行う高い精度が期待できる計算コストが高い、大量のデータが必要
推論を活用する低コスト強化学習既存のモデルの推論を活用し、試行回数を減らして学習する計算資源を節約できる未知の状況に適応しにくい場合がある

強化学習では、試行錯誤のプロセスが膨大な計算リソースを消費するため、効率的な学習方法の選択が重要です。特に、計算コストを抑えるために推論を活用する手法は近年注目されています。

AIの「学習」と「推論」の違いを整理し、AIの学習方法の種類について解説しました。AIは学習フェーズで知識を獲得し、推論フェーズで実際に動作します。そのため、推論の最適化がAIの実用性向上に不可欠であり、近年は推論を活用した低コストな強化学習のアプローチも注目されています。

DeepSeekの強化方法

DeepSeekは、AIモデルの学習と推論を効率化するために、Mixture of Experts(MoE)アーキテクチャ推論を活用したルールベースの強化学習を採用しています。これにより、従来の大規模モデルと比較して、計算リソースの節約と高いパフォーマンスを両立しています。本章では、DeepSeekの強化方法について解説します。


MoE(Mixture of Experts)アーキテクチャ

MoEアーキテクチャの概要

MoE(Mixture of Experts)とは、複数の「専門家(Experts)」と呼ばれるモデルを組み合わせたニューラルネットワークのアーキテクチャです。従来のAIモデルは、すべての層が一律に計算を行うため、モデルが大きくなるほど計算コストが増大していました。一方、MoEでは、入力データに応じて最適な専門家のみが動作するため、計算リソースを効率的に活用できます。

MoEのメリットとデメリット

項目従来のモデル(Transformer)MoEモデル(DeepSeek)
計算コストすべての層を使用するため高コスト必要な専門家のみを動作させるため低コスト
モデルサイズ一定のサイズに制約される必要に応じてスケール可能
推論速度大きなモデルほど遅くなるMoEの選択機構により高速化が可能
訓練の複雑さ比較的シンプルルーティングの最適化が必要

MoEの導入により、DeepSeekは従来の大規模AIモデルと同等以上の性能を維持しながら、より低コストで推論を実行できるようになっています。


推論とルールベース報酬での強化

従来の強化学習では、大量の試行錯誤を通じて報酬を最適化する方法が一般的でした。しかし、この手法は計算コストが高く、学習の収束にも時間がかかるという課題がありました。DeepSeekでは、推論を活用し、ルールベースの報酬を組み合わせることで、より効率的な強化学習を実現しています。

従来の強化学習との比較

項目従来の強化学習DeepSeekの強化学習
学習方法試行錯誤による報酬最適化ルールベースの報酬 + 推論の活用
計算コスト高い(試行回数が多い)低い(推論を活用し試行回数を削減)
学習速度遅い(大量の試行が必要)速い(効率的な学習が可能)
未知の状況への適応強いが学習に時間がかかるルールに依存するため制約がある

ルールベースを用いた強化学習の課題

ルールベースの強化学習は、計算コストを削減できるメリットがありますが、一方で以下のような課題もあります。

  1. 未知の状況に対応しづらい
    • ルールに基づいた報酬設計では、事前に定義された範囲内で最適化が行われるため、想定外の環境変化に適応しにくい。
    • たとえば、囲碁AIが新しい戦術を学ぶ場合、ルールベースでは既存の知識を超えたプレイを生成しづらい。
  2. 報酬設計が複雑になる
    • 適切なルールを設計しなければ、学習が適切に進まない可能性がある。
    • 例えば、チェスAIを学習させる際、駒の損得だけを評価すると、長期的な戦略を学ぶのが難しくなる。

推論を重視したAIの強化方法の可能性

ChatGPT等の既にプロダクトとしてリリースしているAIを 「評価者」「指導役」「対話相手」 として活用し、DeepSeekを強化するのは可能なのでしょうか?
その回答としては「理論的には可能」と言われていますが、ChatGPTの評価をどこまで信頼するか、どのように報酬設計するか が重要な課題となっています。最適な方法は、ルールベース+ChatGPTのフィードバック+自己対話の組み合わせかもしれません。
しかしながら、この方法には「ChatGPTのデータを直接学習させるとOpenAIの利用規約に違反するリスク」 があるため、現実的には実現は不可能なようです。


DeepSeekは、MoEアーキテクチャを採用することで、従来のモデルよりも効率的な推論を実現しています。また、推論を活用したルールベースの強化学習により、計算コストを削減しつつ高精度な学習を可能にしています。ただし、ルールベースの手法には未知の状況への適応力や報酬設計の複雑さといった課題も存在するため、これらをどのように克服しているかが今後のAI技術の発展において重要なポイントとなるでしょう。

オープンなファウンデーションモデル

近年、AIの発展に伴い、ファウンデーションモデルと呼ばれる大規模な事前学習済みモデルが登場し、多くの分野で活用されています。DeepSeekは、その中でもオープンなファウンデーションモデルを提供する点で注目を集めています。本章では、AIの構造、ファウンデーションモデルの役割、そしてDeepSeekが提供するオープンモデルの利点について解説します。


AIの構造

AIは大きく3つの階層に分かれます。それぞれの階層には異なる役割があり、AIを開発・活用する上での重要な要素となっています。

AIの階層役割DeepSeekとNVIDIAの関係
インフラ層AIを動かすための計算資源を提供GPU、TPU、データセンターNVIDIAのGPUが代表的な例
モデル層AIの学習・推論を行う基盤モデルDeepSeek、GPT、ClaudeDeepSeekはこの層に該当
アプリケーション層ユーザーが利用するAIアプリケーションChatGPT、Copilot企業がモデルを利用して開発

このように、AIは「インフラ層(計算資源)」「モデル層(AIの知能部分)」「アプリケーション層(ユーザーが直接触れるサービス)」の3階層で構成されています。

DeepSeekとNVIDIAの比較がApple to appleではない理由
世間ではDeepSeekとNVIDIAを比較する議論が見られますが、これは適切な比較ではありません。NVIDIAは主にインフラ層(GPU)を提供する企業であり、DeepSeekはモデル層に位置する存在です。NVIDIAが最近「NIM(NVIDIA Inference Microservices)」を発表し、モデル提供にも進出し始めていますが、それでも主軸はインフラです。一方、DeepSeekはハードウェアを持たず、モデル開発に特化しており、比較対象としてはむしろOpenAIやAnthropicのような企業が適切でしょう。


ファウンデーションモデルとは?

ファウンデーションモデルとは、大規模なデータを元に事前学習され、さまざまなタスクに適応可能な汎用AIモデルを指します。

ファウンデーションモデルの特徴

  1. 大規模データで学習 – 幅広い知識を持つため、多様なタスクに対応できる。
  2. タスクの適応性 – 追加の微調整(ファインチューニング)によって、特定の用途に最適化可能。
  3. 推論の汎用性 – 文章生成、画像認識、コード生成など、多様な分野で活用される。

DeepSeekのモデルは、このファウンデーションモデルのアプローチを採用しており、特定の企業だけでなく、広く活用できるオープンモデルとして提供されています。


セルフホスティングとオープンモデルの活用

AIモデルの利用方法には、主にセルフホスティングクラウドAPI利用の2つがあります。DeepSeekは、オープンモデルとして公開されており、セルフホスティングが可能な点が大きな特徴です。

セルフホスティングのメリット・デメリット

項目セルフホスティング(DeepSeek)クラウドAPI(OpenAIなど)
コスト長期的に低コスト(自社運用)利用量に応じた課金で変動
カスタマイズ性モデルの微調整が可能API提供元の仕様に依存
データ管理完全に自社内で管理可能クラウド環境に依存
導入ハードルGPUなどのインフラが必要すぐに利用可能
セルフホスティングのメリット
  • コスト削減:長期的に見れば、クラウドAPIの利用料よりも低コストで運用できる。
  • データプライバシー:企業の機密情報を外部に送る必要がない。
  • カスタマイズ性:用途に応じたモデルの最適化が可能。
セルフホスティングのデメリット
  • 初期投資が必要:GPUやストレージの準備が不可欠。
  • 運用の負担:モデルの管理・アップデートを自社で行う必要がある。

DeepSeekは、セルフホスティングが可能なオープンモデルとして提供されているため、企業や研究機関が自社の要件に応じた運用を行いやすいという利点があります。


DeepSeekは、オープンなファウンデーションモデルを提供することで、セルフホスティングによる自由な活用を可能にしています。NVIDIAのようなインフラ企業と比較されることがありますが、実際には異なる役割を持つため、Apple to appleの比較ではありません。また、AIの構造を理解することで、モデル層を担うDeepSeekの立ち位置や、オープンモデルのメリットがより明確になります。特に、セルフホスティングの利点を活かせる環境では、DeepSeekのようなオープンモデルが有力な選択肢となるでしょう。


まとめ

DeepSeekは、低コストで高性能な推論を実現するために、MoEアーキテクチャ推論を活用した強化学習を採用し、従来のAIモデルとは異なるアプローチを取っています。また、オープンなファウンデーションモデルとして提供されることで、企業や研究機関が自由にカスタマイズ・運用できる環境を整えている点も魅力です。

AIの発展に伴い、インフラ・モデル・アプリケーションの役割が明確になる中で、DeepSeekはモデル層に特化し、従来のクラウドAIとは異なる価値を提供しています。特に、セルフホスティングによるコスト削減やデータ管理の自由度を重視する企業にとって、DeepSeekのようなオープンモデルは重要な選択肢となるでしょう。

今後もAI技術の進化に伴い、オープンモデルの活用はさらに広がっていくと考えられます。DeepSeekのアプローチは、その流れを加速させる重要な一歩となるかもしれません。

このように生成AIはそれぞれ特徴を有しており、どのように活用するかはどのような事業を行なうかによって全く異なります。そもそもAIを活用すべき事象なのか等、DX戦略に関するご相談がありましたら以下よりお問い合わせ下さい。

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